葦原 武流 支援SS 『≪ジュエルスオーシャン≫の下で -By the under of ≪Jwels Ocean≫-』高感度ALL100%ED 番外                                  著者:駆流(A・Y) 「・・・・・・・・・・・はぁ〜」  ・・・・・・・・・・ああ、空はこんなに青いのに、何で俺の心はこんなにも暗いのだろう・・・・・・・・・?  心の色は真っ青に染まっているというのに。  これぞまさしく、ブルーな気持ち? 「ああ・・・・・・・・俺ってポエマー・・・・・・・・・・・」  ・・・・・・・・・誰かに似た気がするが、まぁいい。  八尋の一件から早数ヶ月が経って、未だに俺はこの街にいた。  結局、カルテルに捕まった俺達は最終的にはまたカルテルのジェムマスターをやっている。そう、前と何ら変わりの無い・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  ・・・・・・・・・・・・いや、それは嘘になる。多くのものが変わった―――失った。  シェーラ、マリー、梅ちゃん。  そして・・・・・・・・・・・・・ 人間だった洸・・・・・・・・・・・・・・・・  もう、あいつは人間とは違う存在なんだ。俺達と、いや、俺達以上の化物になったかもしれない・・・・・・・・  ・・・・・・俺のわがままで・・・・・・・・・  結局、俺は八尋と何が違ったんだろ?  洸を生き返らせたということは、生きるということを侮辱したことだ。本当なら、それは許されないこと だ。  だが、俺は、それがわかっていても洸を生き返らせてしまった。  確か前に洸に言ったな。 『自分が正しいと思うことをやれ』  俺は、何が正しくて、どんな正義で洸を生き返らせたんだろ?  愛する者の為、というなら、  それは八尋と全く変わらない。  あいつも、愛する者―――黄泉の為に、あんなことをしたんだから。  なら、俺は一体何ために・・・・・・・・・・・・・・・?  一緒に生きたいから。2人で生きれるから、それは不幸じゃないから・・・・・・・・・・・・  ・・・・・・・・・でも、それは幸福か?  それに、洸は俺以上の化物になったんだぞ! 俺が死んでも、あいつは生き続ける、いや、もしかしたら、 死ぬことを許されないかもしれないんだぞ!? 永遠にこの世界に留まり、自分以外の誰かが消えていく悲し みに耐えなきゃいけなくなるかもしれない。  なのに、俺はあの時、それを考えもしないで・・・・・・・・・・・・・・  だからって! じゃあ、あの時、洸が死んでもよかったのか!?   そうじゃないだろ。本当に生きることだけが全てなのか? 人は遅かれ早かれ死ぬんだぞ?  それに、  俺は本当に洸を愛してるのか・・・・・・・・・・・?  ・・・・・・・・・・もう、わからない・・・・・・・・・・・・  だいたい、俺は今何をしてるんだ?  八尋を倒してから、一体何をしているんだ?  今だって、学生服に身を包んで、大嫌いな数学の授業をほっぽり出して来たんじゃないか。  あげく、屋上でごろりと寝転がってる始末。  何をやってんだろ、俺は。  失ったものを取り戻せない。けど、  やり直すことは出来る。  だが、俺は何もやり直していない。  洸は、今はそれなりに元に戻って幸せに過ごせている。今は・・・・・・・・・・・・将来のことは解らない。  真珠も、前よりも強くなった。真珠は真珠のままで強くなれた。  琴代ちゃんは、相変わらず。でも、本当の父親を知っても変わらないのは強いからだろ。  るりは、諦めていたヴァイオリンをまたやると言った。諦めるのも強さだが、諦めない強さも必要だ。  こはくは、自らの罪を背負ってでも生きていくことを、最後のその時まで生きることを誓った。多くの人 の命の灯火を消し去ったこはくには、本当なら、彼等の分まで生き続けなければいけないのだろう。だが、 それはかなわない。だから、あいつはあいつの全ての一生を罪を背負い、罰を受け入れ精一杯生きるのだろ。  すせりは、本当の自分を知ってしまっても、俺がスター・オブ・シェラレオーネ≠ナ生み出した、本当なら忌むべき存在であることを受け入れてくれた。 「私の心は、どんなに忌々しい鋼鉄の鎖が断ち切れても、何一つとして、変わることをはありませんわ」 「ただ、お兄様を愛することは、永遠に変わることのないものですから」  そうとまで言ってくれた。  すせりも、俺のわがままが生み出した存在≠ネんだ。それでも、すせりは、それを受け止めてくれると そう言ってくれた。  みんなが、あれから強くなって、やり直せた。  なのに、俺だけ、何もやり直していないまま、何も変わらないままだ。  本当に、俺は自分が正しいと思っていることをしているんだろうか?  俺はまだ、本当に愛している人が誰なのか、それすらまだわからない。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  こんなに考えるなんて、やっぱらしくない。  ゆっくりと瞼を閉じれば、いつでも見れるような闇が見えた。  少し眠った方がいいな。どうせ、数学の授業に戻る気は全く無い。  色々とまだ考えなきゃいけないことがあるんだろうけど、一度にいっぺんを考えるのは無理だ。  だから、少し眠ろう。  眠ろう・・・・・・・・・・・・・・  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ <―――――――――――――――――――  気がつけば、そこにいた。  気がつけば、『無い』地に立っていた。  気がつけば、人がいた。  気がつけば、そいつと話していた。  気がつけば、そいつが誰だかわかっていたことに気付いた。  気がつけば、わかって驚いていた自分に気付いていた。 「それで、俺は天国にでもきたのか? 目の前に白衣の天使様が見えるぞ。」 「ふん、あいにくと、そう考えるならここは地獄だよ、武流」 「そうか? 俺はてっきり、辺り一面が真っ白でそれ以外何も無い世界は天国しかないと思ったけど?」 「何も無い、行っても何処にも辿り着けない、待っても時は動かない、求めても何も、苦痛さえ与えられな いこの世界を、地獄以外にどう説明するんだ?」 「それも、そうだな」 「だけどな、お前がここにいる、てことは、ここが地獄だってことは否定出来るぜ?」 「なぁ、シェーラ」  言うと、あいつは微笑した。 「はははっ。僕がいるから地獄なんだよ、武流」  そして、シェーラは俺と肌が接するより近く、地平線よりも遠い所で話す。 「なぁ、どうしてお前がここにいるんだ?」 「こっちが聞きたいぜ? 俺はただ寝てるだけなんだぞ」 「そうか。なら、きっとまだお前は色々と迷ってるんだろ? 迷いでもしなければ、こんなとこには来れないよ、普通」 「・・・・・・・・・・・・・そうかもな」  微笑するが、あまり力が入らないのが、自分でもわかる。 「なぁ、武流。お前は結局、自分が決めた女を愛せているのか?」 「・・・・・・・・・・・・ああ」 「それはもう、俺はこの世とあの世にいる対象年齢15歳〜26歳までの美しい女性全てを愛してるぞ」 「真面目に答えろっ!」 「・・・・・・・・・・ハイ」 「・・・・・・で、どうなんだ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」  聞かれて、俺は『無い』空を仰いだ。 「・・・・・・・・・・・・なぁ、シェーラ。誰かを愛するって、何なんだ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」  全く、自分でもどうかしてる質問に、ただシェーラは黙って聞いていた。 「俺は、俺はみんなが好きだ。だけど・・・・・・・・・・本当に愛したいやつは・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・全く、見境無く誰でも構わず毒牙にかけるから、肝心な時に決められないんじゃないか!」 「・・・・・・・・・・反省しております」 「・・・・・・・まぁいい。どうせそんなことになるのは、目に見えたごく必然的なことだ」 「ひどい言い草だな。初めての夜は、あんなにも甘えてきたのに」 「何度も言っているが、気色の悪い事実を捏造するんじゃない・・・・・・!」 「そうだったか? そりゃ、確かにもう少し優しくできたかもしれないが、しかしだな、あれはお前があんなに気持ち良さそうな喘ぎ声をだな・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・お前の脳みそは一体どうなっとるんだ?」 「そうだな。いかに世界の女性を幸せに出来るかを、常日頃から考えているぞ」 「勿論、対象年齢15歳〜26歳の美貌溢れる魅力ある女性に限るぞ」 「・・・・・・・・・・お前の脳みそはどうやら、精液ではなく精器で出来てるらしいな」 「ひどいな、傷つくだろ、そんな言い方」 「貴様に傷つくような心があるとは思えん」 「ベットの上では、あんなにも腰を振っていたのにな、昔は」 「いい加減自分がいかにアホで馬鹿げたことを言っているか気づけ」 「なぁ、そろそろ本題に入らないか? お前と話すといつも話が逸れるんだが・・・・・・・」 「お前が逸らしてるんだろっ!」 「そうだったのか!?」 「茶化すなっ!!!」 「・・・・・・・・・・・・・ハイ」 「ああ、もういい。これ以上単細胞生物の言い分を聞いてると頭の細胞が1つになりそうだ」 「ひどいな。これでも、『いかに多くの女性との交流を深めるか』と『ベットではどのようにイカせるか』の2つの細胞は少なくともあるぞ」 「単細胞生物よりもたちが悪い」  額に手をつき、シェーラは呆れた溜息を漏らした。  そんなに、呆れることはないのに。 「なぁ、武流。それで、お前はわからないのか? 愛するってことを・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・ああ」 「そうか・・・・・・・・・・なら」  シェーラがゆっくりと手を胸の前まで持ち上げ、  ―――俺は察して横に飛び退いていた。 「!!!」  瞬間、俺がさっきまで立っていたところをギガノフレイの強靭な爪が空を切っていた。  意に介さないといった目でシェーラを見ると、あいつの手にはしっかりと魔石スピナッチジェイド≠ェ握られていた。 「・・・・・・・・・ひどいな。人が口説いている最中にナイフを投擲するよりたちが悪い」 「性脳しかない単細胞生物以下に言われるのは気に入らないな」  刹那、今度は背後から殺気を感じて、再度横に飛ぶ。  別のギガノが現れ、突進と同時に爪を振っていた。爪が深々と地に刺さっていた。 「っ・・・・・・・一体、どういう・・・・・・・」  そこで、俺は気が付いた。  暇に、この世界は白い世界ではなくなっていたことを。  全てがギガノによって覆われた世界。  その中心に、俺と、緋石眼を発動させたシェーラがいた。 「・・・・・・・・とんだダンスパーティーだ。パートナーを選ぶのに誰にするか迷うな」 「ふふ。安心しろ。ダンスについてこれなかったら、僕がお前をおぶって連れて行ってやるよ」 「これはまた、大胆発言な・・・・・・・・」 「いいか」  シェーラは打って変わって真剣な表情で俺を睨んだ。 「僕のギガノに勝てなければ、僕はお前をつれていく。愛することも、戦うことも、何も考えなくていい、 何も考えられなくなる世界にだ」 「そいつはまたアンベリーバボーな」 「そうすれば、お前はそんなことをいちいち考える必要もなくなる。また、僕と一緒にいられるんだ。お前だって、そっちの方がいいんじゃないのか? 僕は、その方がいい。そうだろ? 武流」  シェーラが手を差し伸ばした。  一緒に来い、と。戦わずに、一緒に、俺の意思で来てくれと言いたいのか。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  だけどな、 「なぁ、シェーラ。俺が聞いた質問の答になってないぞ?」 「言ったろ。そんなものは考える必要が無い、てな」 「そうか?」 「・・・・・・・確かに、お前の話はとても魅力的だぜ・・・・・・・・・・・」  ギンッ 「今直ぐここから逃げ出したくなるほどにな・・・・・・・・・・・!」  緋石眼を『開眼』させた俺は義手でなくなった右手の代わりに懐からスター・オブ・シェラレオーネ≠取り出す。 「・・・・・・・・・やはり、そうなのか、武流」 「・・・・・・・・・ああ。俺はまだ先が知りたい。ウラ技みたいに、いきなりゴール、てのも面白くないだろ?」 「その過程に、希望がまるでなくてもか? 絶望しかなくてもか?」 「・・・・・・・・・やってみるさ。結果が同じなら、尚更だ」 「・・・・・・そうか」 「お前らしいよ。武流」 「だけど、それでも僕はやるぞ・・・・・・・・・・・・?」 「ああ、来いよ」 「俺は、それでもあの世界に帰る!」  行くぜっ! 「まとめてダンスを踊ってやるぜ! コールっ!」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ <――――――――――――――――――― 「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  黒竜王の爪が尾がギガノを薙ぎ払い、白竜王の牙が翼がギガノを粉砕する。  その他、スター・オブ・シェラレオーネ≠フ中に封じられている全てのジュエルガイストを開放して応戦 する。  しかし、それよりもギガノの数は圧倒的だった。  戦いでは純粋な力よりも数が戦力になる。とはいえ、黒竜王と白竜王の力は絶大だ。ギガノごときに劣るわけはない。  だが、  空の代わりに、大地の代わりに、空気の変わりに存在する多量のギガノなら話は別だ。  空間という空間は全てギガノによって覆われ、幾メートル先も見えない状況だ。  そんな中、徐々に押され始めている。  レギオンなどコモンクラスは固まって相手をしていたが、ほどなく粉砕。  黒竜王と白竜王もずたずたに傷つけられていく状況だ。  これで、減ることのないギガノを倒す策は・・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・・・ちぃ!」  余計なことを考えるな。今は集中が必要だ。2体の魔王を使役するには何よりも集中力が必要だ。  それに、策がないわけでは・・・・・・・・・・・・ 「もうわかっただろ、武流!」 「んぐぅっ!?」  突如、2体の竜王を越え、1体のギガノが突っ込んできた。  咄嗟に腕を交差させて身体へのダメージを軽減するが、トラック級以上の突進力を持つギガノのタックルをもろに喰らい吹っ飛ばされ、地に叩きつけられる。  身体の各所に出来た傷が悲鳴をあげ、傷口からはとめどなく血が溢れ出す。  そして、ついに大群に襲われ2体の竜王も俺同様吹っ飛ばされて、俺の両側に倒れ込む。  そこにギガノの大群が餌にたかるイナゴの群れの様に襲い掛かる。 「ちぃっ!」  意を決して、2体の魔王に命じた。 「黒竜王! 黒炎十字弾≠チ! 白竜王! 滅びの業火≠チ! 撃てぇっ!!!」  2体の竜王が同時にチャージし、  刹那―――3つの閃光が走った。  黒炎十字弾≠ェ中央のギガノ等を粉砕し、滅びの業火≠ェその側面の奴等を焼き尽くす。  一瞬にして、ギガノが全滅して、また同じく一面を覆いつくすだけの数が現れる。 「お前じゃ、僕に勝つことは出来ない」 「はぁ、はぁ、・・・・・・・・っ」  立とうとするが、脚に力が入らない。 「なぁ、もう止めにしよう。もう、考える必要は無くなるんだぞ」 「もう何も、何も考えないで、2人でいよう、武流」  幾千、幾万、いや、幾億といるギガノフレイの大群の中、シェーラが手を差し伸ばす。  その手を受け取れば、どんなに楽になると思う?  この傷も痛みも消え、今まで考えてきてことや、これから考えなきゃいけないことからも開放される。  何も、そう何も迷うことはない筈だ、武流。  梅ちゃんは言った『やり直せない奴もいる』  そうだ。みんなはやり直せた。だけど、俺はやり直せない奴なんだ。そういう奴なんだ、俺は。  だから、ここで終わりにしよう。そう、シェーラは言ってくれてるんだ。  俺に断る理由はあるのか? 無いだろ。 「行こう、武流。2人で、もう一度いよう」  そうだ。シェーラと一緒にいれるんだ。  昔は逃げた。  でも、今は違う。逃げる必要がない。俺もシェーラも、同じ存在になれる。同じ時の中で存在できる。  だから、迷うことはない。  俺は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ @:シェーラの手をとった A:・・・・・・・・違うだろ、武流 @  シェーラの手をとった。  瞬間、白くまばゆい光が俺を包んだ。  ああ、何もかもが癒されていく。  これでいい。これでいいんだ。  そうして、意識までもが白く包まれ、俺はゆっくりと目を開けた。  そこには何もない。  ただ、昔、将来を誓った女がいた。  昔? 昔って何だっけ? 「いこう、武流。僕達だけの世界へさ」 「・・・・・・そうだな」  白く、無い道を歩み始めた。  2人手を繋いで、ゆっくりと歩き始める。  何もない。  何もないからいい。  それが全て。『からっぽ』が全ての世界。  そういえば、昔それを否定して、結局それに浸った男がいなかったけ?  でもまぁいっか。そんなことはどうでもいいんだ。  俺にはシェーラがいる。それだけでいいんだ。   無き道を歩き、場所無き目的地を目指して、2人並んで歩む。  シェーラと歩く、希望の道を。  永久に、2人で、幸せに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・                             ――Fin――  A  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・違うだろ、武流。 「!!!」  一瞬、まるで身体を雷が突き抜けたような感覚。  同時に、俺の手はそこで止まっていた。 「・・・・・・・・・・・・・? 武流、どうしたんだ?」  ・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだった。  俺としたことが、どうかしてたぜ。 「なぁ、シェーラ。お前のお誘いは胸が高鳴るほど魅力的だ」 「しかしな、知ってるか?」 「日本の風はな、夏にはなんと南から吹いて来るんだ」 「・・・・・・・・・僕等霊長類なら極一般的当たり前の常識を、単細胞生物以下がよく知ってるな」 「だがな、秋になって、冬になれば、なんと今度は北から吹いて来るんだ。すごいよな」 「・・・・・・・・・・・・何が言いたい」  じれったいというようにシェーラが睨みつける。 「そう恐い顔するなよ。可愛い顔が台無しだぜ?」 「ならば言え。お前は何で一緒に来てくれない。あの時と同じように、何故来てくれないっ!?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  一間置いて、俺は空を仰いだ。  勿論、そこにはギガノフレイがいた。  でも、  ただ一点だけ、そこには僅かに白い世界が残っていた。 「何でもかんでも、そう決めつけるなよ」 「確かに、生きることは難しい。今は幸せに思えても、将来はわからない」 「どんな苦悩があるか、どんな困難が待ってるか、それに本当に耐えられるか、そんなものはわからない」 「なら、何故一緒に来ない!? それがわかっているなら何故!?」 「・・・・・・・・・・・・わかってるからさ」  視線をシェーラに戻してニッと笑う。  それを見て、シェーラがたじろぐのがわかった。  ほんとに、相変わらず動揺しやすいやつだ。 「わかってるから、だからこそ、それから逃げちゃいけない。いや、逃げたくない」 「きっと、それから逃げてもいいんだろう。でも、俺は逃げたくない。むしろ、その中で生きたい」 「・・・・・・・・・・何故なんだ。どうして絶望しか待っていない道を歩けるんだ?」 「信じてるかさ」 「希望があることを、そして、大切な人がいる世界をさ」 「決まってるからって、諦めたらそこで終わりだろ? 諦めなければ、一筋の光でも見れるかもしれない」 「それが見れないから、『絶望』て言うんじゃないか!」 「そうか? なら、俺は『絶望』はしない。最後の最後まで諦めなければ、必ず光が見えるって、今ここで知ったから」 「何故そう言い切れる!? どうして最後に光が見れると言うんだ?」 「それはな、俺が諦めないで生きてきた道が≪光≫だからさ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「だから、俺はもう諦めない。≪光≫が見えるって、今ここで知ったから、あの世界で歩くことを諦めない」 「・・・・・・・・・・・・愛する者が誰だかわからんような奴に、そんなことが出来るものか」 「・・・・・・・・・・・いや、それもわかった」 「なに?」  思ってもいない言葉を俺が言ったからだろう。シェーラは目をまんまるにして驚いた。 「俺が愛したい大切な人。正直、今でもそれが誰だかはわからない」 「なら、何故?」 「・・・・・・・だがな、」 「こんなにも、帰りたい、と思えるなら、それは、あの世界に愛したい人がいるから、帰って、抱きしめた いから、こんなにも帰りたいと思えるんだ、きっと」 「・・・・・・・・・勝手な解釈だ」 「そうかもな」 「だけど、そう決めた」 「俺は帰って、愛すべき人を探す。そのために帰る」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「なぁ、シェーラ。知ってるか?」 「奇跡はな、起きないから奇跡っていうんだ」 「・・・・・・・・・・・・そうだな」  シェーラが腰に手を当てて、そのまま語る。 「本来、僕等が『奇跡』と呼ぶものは運気≠フ波の上昇部分、或いはその絶頂を指す」 「だから、『奇跡』の前後には大抵は運気≠ヘ下がるものだ」 「最も、魔石を使って運気≠代価として起す『奇跡』もあるが、それは一般の言う『奇跡』には少しあわないか。前にも、僕はそれでお前の裏をつけると思ったんだが」 「それがどうした?」 「いんや。ただの好きなギャルゲーの話さ」 「こんな時にまでふざけたことを言うのか貴様はっ!!!(かなり怒」 「はははははっ! そうかもな。しかしな、」 「俺は、その『奇跡』を掴み取ってみせる」 「奇跡は、確かに―――魔石でも使わない限り―――起こらない」 「だがな、奇跡は起きるものじゃない。掴み取るんだ」 「運気≠ヘ、言わば確率≠ナもある」 「なら、俺はその1%も満たないような確率でも信じて掴み取る。それが、俺の≪光≫だ!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふっ」  シェーラは呆れか感心かよくわからない溜息をはいた。  確かに、少し哲学くさいかったかもしれないが。 「お前には負けたよ、武流」 「どうやら、力ずくでお前を連れて行くしかないようだ!」  再びスピナッチジェイド≠構え、俺を睨む。それに応じて、ギガノから殺気がびんびん伝わってくる ぜ。 「何度も言うけど、お前には僕を倒せないよ」 「それはどうかな?」  俺もスター・オブ・シェラレオーネ≠構え、ぶっ倒れてる2体の竜王を立ち上がらせる。 「言ったろ。掴み取ってみせる。それが俺の≪光≫だ」  2人共に対峙する。  だが、 「・・・・・・・・・すごいな、武流」  不意に、シェーラが薄く笑った。  ほんとに、力なく。 「・・・・・・・・・一つだけ、教えてくれないか?」 「・・・・・・・・・今日は残念ながら白のブリーフじゃないんだ」 「そんなおぞましいことを聞くわけがない!」  ったく、冗談の通用しないやつだ。 「・・・・・・・・・はぁ〜、俺が何でお前を殺さないか、だろ」 「そうだ」  確かに、ギガノを操っているのは他でもない、シェーラだ。  ダメージが跳ね返らないのはよくわからないが、シェーラを仕留めれば、  ギガノフレイ等は消滅する。 「お前はやろうと思えば最初から出来た筈だ。何故そうしない? それとも、お前には本当は僕を殺してでも帰ろうとする気はないんじゃないのか?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「そんな甘えた気持ちで何が掴み取れる? それすら覚悟出来ないお前がが戻っても、ただ『絶望』に喰われるだけだ」 「やはり、お前を帰すわけにはいかないっ!」  魔石を強く握って、威圧感さえ感じる殺気を放ちながら、シェーラは叫んだ。  いや、そこまで想ってくれてるんだったら、頼むから殺気を放たないでくれ。マジで殺されそうだ。 「・・・・・・・・・ふっ」 「何がおかしい!?」 「いんや。ただ、昔と変わらないな、お前は」 「・・・・・・・・昔の話はもうしない」 「・・・・・・・・そうだったな」 「なら、これからのことを話そう」 「?」 「俺がどうやって帰るかだ」 「なんだと?」 「お前を殺す以外の方法で、俺がどうやって帰るかだ」  俺はシェーラに背を向けて、2体の竜王を見上げた。 「なぁ、この世界は待っても時は進まないんだよな?」 「・・・・・・・・・・そうさ」 「行っても、何処にも辿り着かないんだよな?」 「・・・・・・・・・・そうさ」 「いや、嘘だな」  にんまりと笑ってそう言った。 「何だと!?」 「正確には、半分嘘だな」 「確かに、俺がさっきまでいた、最初にお前と話したところは、きっとそうだろう」 「でも、ここは違う」  ばんばん 「地面がある」  足踏みをして音を鳴らす。  そう。さっきまでいたところなら、この地面さえ無かった。さっきは俺達は『無い』地面の上に立ってた んだ。 「地面があるってことは、ここが行き止まりだ。この世界でここより下はない」 「つまり、行き止まりに辿り着けた」 「そして、もう一つ。お前のギガノフレイだ!」  振り向いて、シェーラの後ろに待機するギガノフレイ達を指差す。  ふっ、決まった。 「・・・・・・・・・・・別に、見渡す限り360度+αにもいるのに、何故僕の後ろを指す?」 「言うな。これはお決まりなんだ」 「・・・・・・・・はぁ〜。頭がきれるんだが、馬鹿が傷だな」  む、なんて失礼な、  ま、いっけど。 「ジュエルガイストは想い≠フ結晶。つまり、どんなことがあってもその限度が無限であることはない」 「そうだ。でも、限り無く無限であったらどうする? お前が僕のギガノフレイを後数億回全滅させても、 まだ足りないぞ?」 「違うね」 「俺が言ってるのは、その結晶を作り出す欠片は何処からきてるか、だ」 「な、何!?」 「つまり、結果から言っちまえば、ここは馬鹿でかいギガノフレイの中なんだろ?」 「!!! 貴様っ! 何故?」  あら、相変わらず動揺ぶりが激しいこと。 「さて、では読者の諸君にわかりやすいように説明しよう!」 「・・・・・・・・誰に話しているんだ貴様は?」 「気にするなよ」 「つまりだ。これは俺の推測だが、一番最初に出てきたギガノフレイの攻撃を俺が避けた時、その時を境に俺達はギガノフレイの中の世界に入り込んじまった、てわけさ」 「同じ想い≠フ結晶なら、体内にいる小っちゃな俺達に向けて、大きなギガノフレイが小さなギガノフレイを大量に送り込んでくること可能、てことさ」 「なるほど、大量のギガノフレイが空気中からいきなり出てくるわけだぜ。なんせ、この空間は、」 「ギガノフレイを生む想い≠フ欠片で満たされてるんだからな」 「そして、その巨大なギガノフレイにとって、俺が今まで倒してきたギガノフレイのダメージなんて蚊に刺された程度」 「なら、それを操るお前に跳ね返るダメージはほとんど無い、てことさ」  どうだ、と言わんばかりにシェーラを見た。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  あれ? リアクションが無い?   どっか間違えたか? 「・・・・・・・・・・・お前は、馬鹿なのに頭がきれるな・・・・・・・・・」 「だけど、それがわかったからって、お前に何が出来る? ギガノフレイが出て来る数には変わりないぞ」 「ああ。そうだ」 「しかしな、シェーラ、忘れたか?」 「・・・・・・・・・・・・・?」  眼を閉じ、更に意識を緋色に輝く瞳に集中させた。  これからやることは、静かな波動だけでは足りない。  赤黒い炎も、いや、俺自身の全てを解放するんだ! 「俺は、ダイヤモンドの騎士!」   (サウンドトラックをお持ちの方はScarletをお聞きして下さい  ギンッッ!!!       「いかなる時も、ひとつの例外なく、砕けることは無いっ!!!」  その言葉と同時に2体の竜王が気高く咆哮した。  俺も、自分でわかった。  この時、俺の緋石眼が、まるで紅蓮の炎のように光り輝いていたことを! 「馬鹿なっ! いくらお前でもギガノフレイを全滅させるのは不可能だ!」  「ああ、きっとそうだな。だがっ!」  胸の前で腕をクロスさせ、  2度、2種の印を結ぶ! 「無双一神・・・・・・・・・!」  2体の竜王が白銀に、黄金に輝く無数の粒子となって、  今、ここに一つに集い、究極の竜神を生み出す! 「コール! 究極神竜・ジ・アダモスっ!!!」   グォオオオオオオオオオオオオオッ!  気高き咆哮を上げ、今ここに、究極の竜神を召喚した! 「行くぞ! 神竜っ!」  竜神の背に乗り、俺達は高く、高く舞い上がる。  だが、それを上方にいるギガノフレイが遮ろうと群れをなして襲う。 「邪魔だっ!」  手に持つ神槍グングニール一振りが何十匹とギガノフレイを薙ぎ払うが、それでもギガノは張り付こうと 向かってくる。 「ええぇいっ! ジ・アダモス! 黒炎十字弾∞滅びの業火=A共に撃ち続けろっ!」   グォオオオオオオオオオオオオオッ!  雄叫びと同時に無敵の炎を撃ち続ける。  幾多にギガノを燃やし尽くし、抹消する。  そろそろか・・・・・・・・・・・・・  神竜を反転させ、今度は地上を見下ろす。  下にはシェーラが何かを心配そうな眼差しでこちらを見ていた。  シェーラを殺さず、ここから出る方法。それは、  巨大なギガノの内壁―――地面を打ち砕くのみっ! 「ジ・アダモスっ! 一気に決めろっ! ファイナルヘヴン≠セ!」  命ずると、神槍グングニールと神盾イージス(? が消え、チャージに入る。  神竜がその両の腕を空へと伸ばすと、そこには激しく膨張した、まるで太陽を思わせる紅蓮の火球が。 「いっけぇえええ――――――――――っ!!!」  その紅蓮の神の炎を地に向け、投げた!   シェーラには届かない、地面に!  ―――瞬間、炎が地面と衝突して、激しく地を押し潰す。  足りない、まだだ! 「まだだ! ジ・アダモスっ!」  今度は逆に一気に急降下させ、地面へと突っ込ませる。 「黒炎十字弾=A撃てぇっ!」  連続して、まだ燃え尽きていない炎を押すように、黒炎十字弾≠撃ち続ける。  核爆発を超える炎に、隕石落下の威力の火球を連続して地に撃ち込む。 「まだだっ! 貫けっ! ジ・アダモスっ!」  神槍を呼び出し、未だ消えていない炎に神竜を突っ込ませ、落下の勢いで、地に向け神槍を突き刺す。  ジ・アダモスが紅蓮の炎の中、地を神槍で貫く。  だが、その最中にも核を越える業火が神竜を焼く! 「ちぃっ、この程度か、神竜!」  神竜に守られているからとはいえ、流石にこれはこたえるぜ。 「神の名を持つお前の力はその程度か!?」  神竜が焼けながら、神槍で地を貫こうとするが、まだ貫けない。 「俺は帰らないといけないっ! 命を懸けて守らなければ、愛さなきゃいけない人がいる世界へ、帰らなければならない!」  その時、一瞬だけ神竜と眼があった。神竜の紅蓮の瞳が、俺を覗き込んでいた。 「神竜っ! 今ここに、力を示せぇ――――――――っっっ!!!」  神竜が咆哮を上げ、両の腕で神槍を地に突き立てた。  ―――そして、ついに貫いた!  地に亀裂が走り、砕けたジグソーパズルのように粉砕する。  紅蓮の炎の先に、それまでいたギガノが全くいない、白い世界。ついに見えた!  外に出ると、それまでいたのだろう、でかすぎて見ることの出来ない巨大なギガノフレイが消え去り、中からシェーラが1人取り残されるように現れた。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・シェーラ、俺の勝ちのようだな」  神竜から降り、『無い』地面に降り立つ。 「・・・・・・全く、呆れたゾウリムシだ。力押しで貫くなんて」 「いいだろ? お前も生きてるんだし」 「ふん、僕はもう死んでるんだぞ」  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ! 「なぁ、もしかしてお前・・・・・・・・・・・・忘れていたのか?」 「しまった! すっかり忘れてたっ!」 「・・・・・・・・・・本物の大馬鹿者がいたとは」 「そうだ! シェーラはもう死んでるんだった。殺すもくそもねぇじゃん!」  「こんな単細胞以下の知能しかもたない生物に負かされるなんて・・・・・・・・・ふふふ、ははははっ」  シェーラが笑った。本当のシェーラの笑顔だ。 「全く、お前はほんと馬鹿だな」 「自分でもそう思うよ」  全く、なら、最初からシェーラを攻撃してれば良かった。  ・・・・・・・・・ん? 死んでるんだったら、それじゃ倒せないじゃん! 「なぁ、武流。本当に、僕とは行かないのか? 向こうに、帰るのか?」 「・・・・・・・・やれやれ、困った甘えん坊さんだ」 「別に・・・・・・・・・なぁ、武流」 「ん?」 「焦るなよ」        (サウンドトラックをお持ちの方はINNOCENT piano verをお聞きして下さい  シェーラが笑う。今まで見たことのない顔だ。  でも、いい顔だ。 「お前みたいなゾウリムシが本当に愛したい女をすぐに決められるわけないだろ」 「・・・・・・・・・ひどいな、傷つくだろ」 「だから、少し時間をかけて考えてもいいんじゃないのか? 最後に絶対決められるなら、少しは迷っても、それでもいいと思うよ」 「・・・・・・・・・・・・そうか」  確かに、焦っていたな。  最後に、シェーラに教えられるとは。 「それに、確かお前、あの子を生き返らせたことで悩んでてたな?」 「・・・・・・・・・・ああ。本当に、あれで良かったのか・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・1つ、言わせて貰えば、」 「良くはないな」 「でも、悪くもない」 「お前もわかるだろ。人によって、『正義』も『悪』も違うってこと」 「ああ。誰かにとって『正義』でも、それは別の誰かにとっては『悪』なんだ」  そう。八尋の『正義』が、俺の『悪』であったように。  八尋の『嘘』が、俺の『正義』であったように。 「ああ。だから、『正義』も『悪』も、決め付けられない。だから、お前にとって『正義』でも、それは誰かの『悪』かもしれない」 「だから、お前が本当に間違えていれば、誰かが正してくれるよ。お前が、八尋を止めたようにな」 「・・・・・・・・・・・・・」 「それに、命の重さを知っているからこそ、時には生きることを侮辱しなければないことも、あるんじゃないのか」 「・・・・・・・・・・・・・」 「迷ったり、悩んだりしたら、気にしないで迷って、悩んで、それから答えを見つけろよ。焦っても、何も見えてこないぞ」 「・・・・・・・・・そうだな。そうなんだな」  ゆっくりと、シェーラに歩み寄り、そっとその頬に触れた。 「ありがとう」 「気にするな。原始人に近代文明を教えたもんだ」 「ひどいな」 「ゾウリムシよりはマシだろ?」 「そうだな」  お互い見合って笑い合う。  そして、彼女を抱きしめた。  暖かいぬくもりが、腕の中に、胸に広がった。  何故だろう?  こんなにも楽しいのに、  こんなにも嬉しいのに、  シェーラと共に、シェーラが連れて行こうとした世界に行く気がしない。 「なぁ、シェーラ」  俺の胸に顔をうめるシェーラに言う。 「お前がさ、もし生まれ変わったら、」 「また、お前の不味いチョコパフェ食わせろよな」 「・・・・・・・ひどいな。食べてる時は、嬉しそうな顔をするくせに」 「安心しろ。その前に、お前が死んだら、嫌でも毎日食わせてやるよ」 「はははっ。なら、一緒に地獄で喫茶店でも開くか?」 「ふっ、無理だね。お前は天国に行くからな。僕じゃ会えない」 「それじゃ、俺が地獄まで会いに行ってやるよ」 「だから、」 「いつか2人で、あの世でもこの世でも、一緒に喫茶店、やろう。約束、な」 「・・・・・・・・・そうだな。約束だ」 「ああ」  白銀に輝くその髪を撫で、  そっと、唇を奪った。 「このまま押し倒したいんだがな」 「ったく、雰囲気を考えろよ」 「そう言って、本当は少し期待したんじゃないのか?」 「ば、馬鹿言え! 僕は・・・・・・・・・・ん!」  頬を真っ赤に染めて言い訳するシェーラの唇を強引に奪った。  しばらくは味わえない、この味を。  でも、また味わえる味を。  その時、神竜が咆哮した。 「・・・・・・・・ちぇっ、せっかくのいい味だったのにな」  ・・・・・・・・でも、わかってるさ。  待っている人がいる。  だから、  もう行かなきゃ。帰らなければ。 「・・・・・・・・・もう、行くんだな」  シェーラが名残惜しそうに俺から離れた。  その顔は、やはりどこか悲しそうだった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・」  そんなシェーラの頭に手をおいて、ゆっくりと撫でる。 「な! 何をするっ!?」  そうは言いながらも、払いのけるどころか、そのままされるがままになってる。  全く、本当は嬉しいんだろうに、素直じゃないんだから。 「そんな辛気臭い顔すんなよ。まるで好きな子が引っ越しちゃう小学生みたいな顔だぜ?」 「また会うんだから、な」  なだめるように、その頭を再度撫でた。 「ああ」  そして、シェーラが笑った。   今まで見たシェーラの笑顔の中で、最高の笑顔だ。  その顔を見て、俺は満足した。  シェーラから離れ、ジ・アダモスの背に乗った。  神竜が咆哮し、ゆっくりと、『無い』空へと上がる。 「約束だからな、武流!」  下で、シェーラが叫んだ。 「喫茶店、2人で一緒にやるんだぞ! 約束だからなっ!」  半分泣きながら、俺に向かって叫ぶ。  だから、俺は一言だけ言った。 「ああ、約束だ!」 <―――――――――――――――――――――  約束だ・・・・・・  約束だ・・・・・・・・・・・・・・・  約束だ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・さま・・・・・・・・い」  ・・・・・・・・・・・・・・・ん? ここは? 「・・・・・・いさ・・・・・・・・・・おき・・・・さいませ・・・・・・・!」  誰かが・・・・・・・・・・呼んでいるのか・・・・・・・・・・? 「・・・・・・・ける・・・・・・・・さいよ・・・・・・・・・・・・!」  何だろ? この気持ち。  すごく、懐かしいんだけど、  すごく、名残惜しかった。  そして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・・・・会いたかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  ゆっくりと、手が上がった。 「! お兄様っ!」 「武流っ!?」  それをすぐさま掴む手が2つ。  その感覚に、意識が吹き返した。 「・・・・・・・・あ、れ・・・・・・・・・・・・?」 「俺は・・・・・・・・・・・・・」 「あぁ、お兄様、気を確かにお持ちくださいまし!」  誰かの顔に手が触れる。 暖かい感覚が手のひら一杯に広がった。 「武流、ねぇ大丈夫」   少女の顔が覗き込んだ。  ああ、見覚えがある。俺が守りたかった大切な人だ。  もう1人も覗き込んだ。  こっちも見覚えがある。大切な人だ。  2人とも、世界に1人しかいない、大切な人だ。  身体を起し、その2人を交互に見た。 「もう、心配かけないでよぉっ! こんな時間まで探しても何処にもいなかったんたし。もぉ・・・・・・・・・・」  少女が泣きながら言った。  何故だろう? 今この少女に泣かれることが嫌なのに、嬉しい。 「お兄様。お兄様は先程まで息をしていなかったのですよ!」 「でも、良かった・・・・・・・・・お兄様が、生きていて・・・・・本当に」  何だろう? すごく暖かい。  胸が締め付けられて痛いのに、すごく暖かくて、嬉しくて・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・・・・・・・夢を、見てた」 「大切な、大切なものを・・・・・・・・・・・・・・・」  頭に浮かんだ言葉が口を出た。  ただ、それだけしか言葉に出なかった。  続きが言えなかった・・・・・・・・・・・・・・  気がつくと、俺は2人を胸に抱きしめていた。 「お、お兄様?」 「武流? ちょ、ちょっと」 「頼む!」 「見ないでくれ」  2人を胸に抱いたまま、俺は気がつくと泣いていた。  肩が震え、涙が頬つたって落ちて、右手は、スター・オブ・シェラレオーネ≠強く握り締めていた。 「・・・・・・・・・・お兄様」 「・・・・・・・・・・武流」  2人も察して抱き返してくれる。  何故だろう?  こんなに切ないのは。  こんなに悲しいのは。  こんなに、こんなにも嬉しいのは、何故だろう? 『約束だ』  その言葉が何度も頭をよぎった。 「ああ。約束だ・・・・・・・・・・・・・・」  シェーラ。約束だ。  絶対に、破らない、破れない約束だ。 「・・・・・・・・・・・・・さってと」  立ち上がって、空に向かって一伸びする。 「さて、洸」 「え?」  突然に言い出したからか、洸は変な声を出した。 「腹が減ったな。夕飯はまだか? 今日はハンバーグがいいな」 「・・・・・・・・・もぉう、馬鹿。今日は罰として夕ご飯抜きよ」  胸に、彼女の重みを感じた。  抱きついてきた洸の髪を優しく撫でて、そっと、その身体を離した。 「とりあえず帰ろうぜ。もう暗いしさ」 「うん、わかった」 「じゃ、私、先に下駄箱のところに行ってるから」   洸はそういうと屋上から出て行った。 「・・・・・・・・・・・・お兄様」  俺の横でポツリと佇むすせりに歩み寄って、その頭を撫でた。 「どうしたすせり? 早く帰って飯にしようぜ」 「せっかくの長い夜が短くなっちまうぜ?」 「え?」  すせりが驚いて俺を見た。 「早く帰らないと、お前と一緒に過ごす夜が短くなっちまうだろ?」  頭をポンと軽く叩いてやる。  一瞬、自分が何を言われたかわからず、すせりは唖然としていたが、 「はいっ!」  後には満面な笑みを浮かべていた。 「じゃ、帰ろうぜ、すせり」 「はい、お兄様ぁ♪」 「しっかし、ほんと腹減ったな。牛丼でも食っていかないか?」 「ダメよ。ちゃんと家で食べるんだし・・・・・・・・それに、今BSE問題の真っ最中じゃない」 「は? 何を寝ぼけたことをおっしゃてるのですか? それは、8月にはもう解決しましたわよ?」 「え? そうだったの?」 「でも、だめよ。今日お金持ってきてないんだから」 「へいへい」 「かわりに、夕ご飯一杯食べていいから、ね」 「それもそうだな」  帰り道。  何気ないこの会話すら、何故か懐かしく感じる。 「ねぇ、結局、あんなところでどうしてたのよ?」 「ん?」  バイクを押している俺の隣で洸が聞いてきた。 「別に。ただ寝過ごしちまっただけさ」 「嘘っ! だって、武流、息してなかったのよ!?」 「ちょっと洸さん。少しは静かにしてもらえませんか? 夜な夜な近所迷惑ですわよ」  俺が押すバイクに跨るすせりが言う。 「それに、少し息をしていなかった程度でいちいち大騒ぎしないでくださいまし」 「だ、だって・・・・・・・・・・・」 「あら、言い訳ですの? 毎日毎日大人ぶる方のわりには、なんと大人気ない」 「そ、そんなんじゃ・・・・・・・・」 「全く、これだから大人気ない大人は嫌ですわ、嫌ですわ」 「はははははっ」  2人のやりとりを見ながら、俺は笑った。  本当に、心から笑った。  嬉しかった。こんな風に笑えることが、心から。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  シェーラ。  今は、悩んで、迷ってばかりだけど。  いつかきっと、見つけてみせるよ。掴み取って見せるよ、本当に愛する人を。  そして、絶望と苦悩に満ちるこの世界で、  ≪光≫になってみせる。  そして、  お前と2人で、喫茶店、やろうな。 「・・・・・・・・・なぁ、2人とも」 「え?」 「はい」 「愛してるぜ」 「! な、なななっなっ!!!?」 「私もですわ。お兄様ぁ♪」  洸が真っ赤になりながら驚き、すせりが俺の背に抱きついてきた。  そして、俺は静かに微笑みながら、空を見上げていた。  空は満開の星空。  幾多の星々が光輝き、この大地を、空を優しく照らす。  そう、俺達はこの絶望と苦悩が渦巻く世界を一筋の希望求めて生きていくんだ。  この星空が光り輝き照らす世界を。  宝石の海、≪ジュエルスオーシャン≫が照らす、この世界、≪INNOCENT WORLD≫を。                        ――Fin――  輝ける光る想いを胸に、今、光あれ