すせり嬢 支援SS 『輝きの道 -The road of Shining-』 すせり嬢ED後 番外     著作:駆流(A・Y)  最近、お兄様の様子が変です。 「すまん、すせり。今日もまた先に帰ってくれ」  校門のところで別れる際に、お兄様はいつもそう言われます。  ここ幾週間ほどはいつもこうです。  私も普段なら特に気にするようなことではありませんが、  あのメス豚乳が一緒、というのが気に入りませんわ。  それでも、私はいつものようにお兄様を信じてきましたわ。  でも、毎日あの巨乳をバイクの後ろに乗せて学校を去り、2人して夜遅くまで帰ってこない日々がこう も続くと、さしもの私も少し不信感を抱いてしまいます。  夕食が遅くなるは一向に構いやしませんが、お兄様はどうやら深夜もあのブス乳と何処かへ行ってしまわ れるのです。  せめて、私に一言でも声をお掛けになってからでも宜しいのでは?  それとも、私には言えないようなことが・・・・・・・・いえ、まさか! そんなことあり得る筈はありません。  私はいつも、お兄様を信じてきました。  確かに、八尋の一件では私のつまらない傲慢さ故に擦れ違いにはなってしまいましたが、もう、私とお兄様を引き裂くようなことは永遠にあり得ませんわ。  それが例え、始めは魔石スター・オブ・シェラレオーネ≠フ呪縛の鎖であっても、今となっては全くの無 関係。  私はお兄様を、そして、お兄様はそれ以上に私を信頼してくれていますわ。  ・・・・・・・・・・・・ですが、気になるのもまた事実。 「・・・・・・・・・・・・・・と、いうことですので、一体お兄様達はいつも何処へ行かれておりますの?」  朝も早々、早速聞いてみます。 「ん? おいおい、いきなり何だ? すせり」 「いきなりではありませんわ。いつも、私に行き先も告げないで、お兄様は何処かに行ってしまわれるでしょう。それも・・・・・・・・・・・」  言って、目線で洸さんを指します。 「こんな、胸しか成長していないようなどこぞのメス豚と一緒だなんて・・・・・納得できませんわ!!」 「あのねぇ、すせりちゃん。いつも言ってるけど、言っていいこと悪いことが・・・・・・・・・・」 「あら、私は少なくとも、家畜には言っても構わない程度の言葉を使っているつもりなのですが?」 「―――――!!!」  あら、こめかみピクピクさせちゃって。今日は少し毒の量を多くして言いましたからね。 「洸もそう怒るなよ。子供の言うことじゃないか」 「だから! 言っていいことと悪いことがあるって、いつも言ってるじゃない」 「はんっ、いつも言ってるなら明日も言うおつもりで? マメな方ですわね。おほほほほほっ」 「まぁまぁ、2人とも、その辺で抑えて抑えて」  お兄様が私と胸畜生との間に入ります。 「で、すせりは俺がいつも洸と一緒に何処に行っているか、だったな?」 「ええ。正確には、何処で何をしていらっしゃるか、ですわ」 「そうだな。まぁ、ストレートに言えば・・・・・・・・・・・・」 「秘密だ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「? どうしたすせり? リアクションが無いぞ?」  (わなわなわなわなわなわな)×3 「?」 「納得できませんわ!」 「のわっぷ!」 「きゃっ!」  星 一○もびっくりのちゃぶ台返しですわ。 「どうして教えてはくれないのですか!?」  今度はひっくり返したちゃぶ台を元に戻してそれを叩きます。 「まぁ、落ち着けって」 「なら、教えて下さいまし。一体何を?」 「もちろん、とても人には言えないことを、だ」 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・お兄様。おふざけにならないで真面目に答えてくださいまし」  ああ、どうしましょう。これではまた、以前のように・・・・・・・・・ 「む? さっきのじゃだめ? 困ったな。それ以外になんて答えれば・・・・・・・・」  確かに、今は生理中で気が立っている、というのもありますが。 「う〜ん、そうだな・・・・・・・・・・・おお! そうだ」  いえ、悪いのは私。でも、湧き上がる感情が、抑えられない・・・・・・・・・ 「とてもすせりには言えないことを、だ」  はははっ、とお兄様が笑います。いつもならつられて私も笑顔になる。  ですが・・・・・・・・・・・・・・・ 「いい加減にしてくださいまし!!!」  気付いたときには大声を出していました。 「どうして教えてくれないのですか? 私はいつでもお兄様を信じ、お兄様の為に尽くしてきました。なの に、どうしてですか!? 私に知られて困るようなことなど、秘密にしなければならないことなど!!」 「お、おいおい、ちょっと落ち着け。これでけはお前には言えないんだ」 「・・・・・・! こんなに言っても、まだ私には教えられないと言うのですか・・・・・・・」  気がつくと、私は立ち上がり、お兄様を見下していました。 「お兄様は私にとって、世界で一番大切な方ですわ。ですから、お兄様が愛する者が私以外の、例えそれが 胸畜生の洸さんでも、私はそれを受け入れます。ですが、何でそれを隠すのですか!? どんなことでも私は受け入れます! それでも、私には話すことが出来ないと。お兄様はそうおっしゃるのですか!!!?」  激し、怒号を上げてしまいます。 「違う! 違うんだ、すせり」 「何が違うとおっしゃるのですか!? 違うのなら、何故話してはくれないのですか?」 「それは・・・・・・・」  押し黙ってしまったお兄様を見て、ついに私の怒りは限界に達してしまいました。 「お兄様なんて・・・・・・お兄様なんて・・・・・・・」  ダメです。思ってもいないことが口を出そう。 「お兄様なんて、大嫌いですわ―――――――っっっ!!!」  気がつけば後の祭り。  私はそのまま飛び出してしまいました。 「すせり・・・・・・・・・・・」  いきなり飛び出して行ったすせりを見て、正直俺は唖然としていた。  洸なんて、途中から口を挟む気にもなれない程だった。  まいったな・・・・・・そういう意味じゃなんだが・・・・・・・・・・ 「・・・・・・・・ねぇ、追いかけてあげなくていいの?」  頭をかいてると、洸がようやく口にする。  やっぱり、さっきのすせりの激怒に自分が関わっているのがショックなのだろう。 「いや。あいつなら平気さ」 「どうして、そう言い切れるのよ。すせりちゃんのこと、心配じゃないの?」 「心配といえば、心配だが、お前ほど心配はしていないぞ」 「どうして・・・・・・・・・!?」 「信じてるから」  俺は立ち上がった。  そうだ。今はすせりには悪いがやらなきゃいけないことがある。  すせりのためにも、そっちを優先させるべきだ。 「それより、せっかくの休日になったんだ。『あれ』をさっさと完成させようぜ。すせりのためにもな」  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  気がつくと、私は何処か知らないところにいました。  周りを見回すと森の中の草原、といったところでしょうか?  とすれば、るりさんの神社の近くでしょうか。  まぁ、私には白鳳がいますから、いつでも帰れますけど。 「・・・・・・・・・・帰る・・・・・・・・・?」  何処へ? お兄様のところへ?  今更、どうしてお兄様が私をお許しになるでしょう?  あんなに支離滅裂なことを言ったあげく、お兄様に向かって「大嫌い」など・・・・・・・・・・・  二度という筈のない言葉だったのに・・・・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・・・・・・・・・ああ」  草原に身体を預け、沈み込みます。  お兄様。  私はどうすれば・・・・・・・・・・・・・・・・・  時は経ち、早くも刻は夕刻を越え深夜深い時。 「はぁ〜。しっかし、随分と遅くなっちまったな」  バイクの火を消し、洸からヘルメットを取る。 「うん。でも、何だかんだ言って、終ったから良かったね」  全くだ。  まさか、自分が思いついたこととはいえ、あそこまで上手く出来るとは思わなかった。  さて、後はすせりを・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・・・・・・・・・・」  そこで朝のことを思い出し、嫌な予感に駆り立てられた。  まさかとは思うが・・・・・・・・・・・・・・ 「え? ちょっと武流・・・・・・・・・」  洸の脇を通り過ぎて家の中へと入る。 「・・・・・・・・・・・いない」  家の隅々まで――屋根の上から床の下まで―――探したが、いない? 「武流、まさか、すせりちゃん帰ってないの?」  うすうすは思っていたが、さすがにこの時間じゃ何かあったかもしれないな。  なんせ、もう日にちはケンカした日を昨日にしていたんだから。  思考を張り巡らせ―――刹那、携帯の音が鳴り響く。 「んだよ、こんな時に・・・・・・・!」  携帯を取り出し、出る。 「誰だぁ? こんな時に! ヤローだったら切るぞ!」 『お許しを。『スター・オブ・シェラレオーネの金剛』』 「! カルテルか?」  久々とは言え、その名に懐かしい響きを感じる。  ここ最近、任務と呼べる、ってか任務自体全く無かったんだから。  八尋の一件から早数ヶ月。  俺やすせりは、結局またシンジケートのジェムマスターをしている。数々の命令違反や『王になる力』を 知ってしまった等、かなりのイレギュラー的な存在になってしまったが、オッペンハイマー卿の手回しの お陰でまた前と変わらずの生活を送っている。最も『王になる力』は記憶処理を行われたから知ってた記憶 はあっても、内容は消されてる。すせりや洸やるりも同じ処理をされたらしい―――琴代ちゃんはされてい ないことから、琴代ちゃんも知っていることをカルテルは知らないみたいだ―――。  現在、俺達は新たな任務が出るまでは花月家で待機、とのことだった。八尋の一件以来、この町を中心に 破れ≠ェ多発しているらしい。だから、俺達はその破れ≠ゥら出てくるジュエルガイストの処理が当面 の目的だ。それに、まだ八尋の一味が極僅かながら潜伏している、との噂や、新しいジュエルガイストや魔 石が見つかった、という噂も聞く。ジュエルガイストについては、事実、俺達も1種類捕獲した。八尋がジ ュエルガイストを造っていたんだから、そう不思議なことでもない。  ともかく、俺達はそれでこの町にいた。だから、また洸との普通の生活も楽しめた。  ちなみに、両親を失った洸は今はカルテルから出される援助金で元の生活を過ごしている。 「それで、今日は夜も遅く俺に何の用だ?」  聞いたのは他でも無い。向こうが女だからだ。男だったら、今頃切ってるぞ。 「・・・・・・・・・何だって!?」  だが、切らなくて良かったことを、今更ながら痛感した。 「わかった。すぐに行く」  携帯を切り、すぐに表に出る。 「・・・・・・・行くんだね」  表に出たところで洸が声を掛けてきた。 「ああ」 「ちゃんと帰ってきなさいよ。すせりちゃんのためにも」 「わかってるって。お前もそれより、今日はちゃんと寝るんだぞ?」 「うん。今日くらいは、武流はすせりちゃんと一緒じゃないと、ね」 「ああ、そうだな」  笑う洸にの頭に手を置く。  そんな洸の頬に、今度はそっとキスをする。 「きゃっ! いきなり何するのよ」  赤くなっちゃって、かわいいやつ。 「今日1日はお前と一緒にいれないかもしれないからな」 「もぅ、バカ・・・・・・・・・・・・・・」  うつむいて小言を言う洸に微笑んだ後、俺は懐からスター・オブ・シェラレオーネ≠取り出した。  虚無鬼との融合の際、義手だった手がいつの間にか元に戻っていた。だから、この魔石は懐にいつも入れ ている。 「コール! 黒竜王・シグルトバルム!」  瞬間、目の前の空間に黒い竜王が姿を現す。  出来るならバイクを使いたいが、今は一刻も早く行かねば! 「それじゃ、行ってくるわ」  黒竜王の背に乗り、言った。 「うん。いってらっしゃい!」  洸の言葉を聞いて、黒竜王に命ずる。  竜王は高く飛び上がり、目的地まで高速で飛ぶ。  待ってろよ。  すせり!  武流がその報を受けた時から、しばし時をさかのぼることになる。 「・・・・・・・・・・・・・はっ!」   いけません。私としたことが、どうやら寝入ってしまったようですわね。  空は打って変わって満開の星空。  あ、流れ星ですわ。  お兄様、お兄様、お兄様!  ・・・・・・何をしているのでしょう? 私は・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・・・はぁ」  結局、お兄様と仲直りどころか会えないまま夜になってしまうとは。  お兄様は私を許して下さるでしょうか・・・・・・・・・・?  あんなに、散々にも怒鳴ってしまった私を・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・・・・・・・・・お兄様」  そう口にした矢先―――特有のノイズにも似た感覚。 「・・・・・!!」  身体のばねを使い、寝ていた体制から少し後ろの方へと身体を飛び上がらせます。  瞬間、さっきいた場所に巨大な爪が突き刺さります。 「! これは!?」  肉眼でもはっきりと見える空間の歪み、割れ目、これは破れ=I? こんなに大きいものを見るのは 八尋の一件以来ですわ。  しかも、出てきたジュエルガイストはアセドエンペルを始め、超強力なジュエルガイストが多数。  その上、見たこともないジュエルガイストも。どうやら、前に捕まえたものと同様、新種ですか。  これは、少し分が悪いですわ。  ジュエルガイスト達と対峙して、私は携帯を取り出し、お兄様にコールします。  ですが、当たり前のように圏外。 「・・・・・・・・ふん。まぁ、いいでしょう」 「ギンッ」  緋石眼を発動させ、両の腕を胸の前で交差し、2度、2種の印を結びます! 「正邪一神▼・・・・・・!」 「コール! 月華王鬼・百影っ!!!」   キェエエエ―――――――――ッッ!!!  甲高い咆哮をなして、私の目の前に最強ジュエルガイスト 百影が出現します。  その様に他のジュエルガイスト達がたじろぎます。  アセドエンペルを始めこの強力な多勢を相手には流石に私も難しいですわ。  なら! 「百影! オメガカノン=A発射しなさい!」  私の命に百影は雄叫びを上げ、チャージに入ります。  両の爪を地に刺し、口元にエネルギーの収束が始まります。  ゾ○ドのジェ○ブレイカーの荷○粒子砲? F○]のバハ○ートのメ○フレア?  さぁ? 何のことでしょうか? 私の知らないネタを使わないで下さいまし。  他のジュエルガイストも気がつき、襲いに掛かりますが、もう遅いですわ。  瞬間、一線の光が放たれました。 「ちぃっ! どけぇ!」  場所が近づくにつれ、出てくるジュエルガイストが一層多くなってくる。  早くすせりのところに行きたいのはやまやまだが、こいつらをどうにかしないと。  黒竜王の爪が次々に迫るゲガノフレイの大群を引き裂いていく。だが、きりがない。  どうやら、地上でも色々と奮戦しているらしく、ちらりと青ローブが見える。  まぁ、そんなことはどうでもいい。  今はすせりだ。  さっきも見えた光はオメガカノン=B  何回も撃ってる、てことはマズイ証拠だ。    キエェェ――――――――ッ!!  正面、普通のギガノフレイよりも大きめで外見も少し違う。新種か!? 「ええぇぇい!!」  ったく、なんでこういう時にっ!  ・・・・・・・・・・・すせり! 「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・・・・・・・」  私としたことが、油断しましたわ。  瞬間、前面! 「!!!」  他のジュエルガイストどもをまとめて滅多切りにしていた百影にアセドエンペルが 滅義怒の火≠ 放ちます。  回避しきれず、ついに左前足をやられます。完全に焼失して、その巨体が地に伏します。 「うっ!」  私の左腕にも灼熱の熱さが。同時に焼ける肌の臭いが鼻を刺します。 「くぅっ! 百影っ!!」  前足をやられ、その上、雑魚ジュエルガイストどもがたかる中、再度チャージ。  そして、咆哮と共に今日二桁を越えるオメガカノン≠発射!   全てのジュエルガイストが再度全滅します。  同時に、力尽きた百影が地に伏してしまいます。左腕を失い、下半身もぐちゃぐちゃに。 「ああ、百影・・・・・・・・・・・」  私もついに地に倒れます。  一体、何度撃滅したとお思いですか。  それに、新種も捕獲しなければならないのに・・・・・・・・・  ですが、 「・・・・・・・!!!」  身体を跳ねさせ、その場を飛び退きます。  その場を、次の瞬間にはまたジュエルガイストどもが!  いい加減にして下さいまし!   キャッツアイ〜≠構え、再度現れたジュエルガイストどもと対峙します。 「!!!?」  瞬間、がく、と膝から力が抜け、同時に傷ついた百影が消滅します。 「どうして・・・・・・・・!」  そして、気がつきます。  私は既に、緋石眼を維持してはいませんでした。緋石眼でなければ、百影を呼び出すことが出来ません。  地に膝つく私に、ジュエルガイストどもが一斉に襲い掛かります。 「・・・・・・おのれぇ〜!」 「ギンッ!」  再度、意識を集中させ緋石眼を開きます。  同時に、地を押し、後方へと大きく飛び退き、魔石を構え呼び出します。 「コール! 破邪鬼・絶・・・・・・・・・・・・」  ズバッ 「・・・・・・・・・・!?」  一瞬、理解出来ませんでした。  後方へと進まなくなり、ようやく、私は自分の腹部から防刃服を貫き長いランスが突き出ているのを知り ました。背から一突き。なんて迂闊な。 「・・ぐっ・・・・が、はぐっ・・・・・・・・」  思い出したかのように激痛が、そして、傷口と口から多量の血が噴出します。  なんてこと! たかが雑魚ジュエルガイストであるレギノスごときに、この私が!  更に、レギノスはランスを上げ、私の身体を天へと突き上げます。  内臓をえぐり、そのままランスを更に突き出します。 「あ! ・・・・・・・ぐっ、あああっ!!!」  情けなく絶叫します。  そして、一気に地へと叩きつけらます。 「あぐっ・・・・!」  しばらく地を転げ回った後、ついに大勢のジュエルガイストに囲まれます。 「うぅぅっ・・・・」  いつもなら、この程度ではどうもしませんが、連戦、それも、一時間以上に渡る長期戦で流石に力の限界 ですわ。  ここは、逃げの一手。 「こ、コール! ぜ、絶影!」  口に溜まった血で上手く言えませんが、どうにか召喚・・・・・・・・ 「!? 何故?」  絶影が出てきません。  見れば、キャッツアイ・ダイオプサイド≠ェ嵌めてある左の手甲がちぎれてありません。  なんて迂闊な。これでは・・・・・・・・・・・・・・・  そう考える矢先、ついに、緋石眼が解けました。  それまで、緋石眼の力で多少は和らいでいた痛みが全て、芽を出します。 「うぅ・・・・・・・」  もう、叫ぶだけの力もありません。  そして、一斉にジュエルガイスト達が私に群がります。  ああ。もうダメのようです。  お兄様・・・・・・・・・・・・・・・  ああ、本当にあんなことを言うんじゃなかった・・・・・・・・・・・  お兄様。こんな情けない義妹でも、貴方様は悲しんで頂けますか?  お兄様・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 『すせりぃ―――――――っ!!!』    !!! お兄様!?   ・・・・・・・・・・・いえ、そんな筈はありませんわ。ただの幻聴です。  ですが、その幻聴に意識が一瞬戻ります。 「んぐぅ・・・・・・!!」  私の左右には白と黒。  そして、私の目の前には、あの方が。  ああ、これが夢でなければ、どんなに良かったか・・・・・・・・・・・・  お兄様・・・・・・・・・・・・・・・・ 「すせりぃ―――――――っ!!!」  一斉にジュエルガイストに囲まれたすせりを見た時、無意識のうちに白竜王・サヴァンティルも召喚して いた。  そして、丁度すせりの周りに三角形の形が出来るようにジュエルガイストとの間に割り込む。  黒竜王と白竜王を盾に。残った一辺を俺が守る!  もう一体も出す余裕がなかった。  ―――瞬間、あらゆる攻撃が黒竜王を、白竜王を、そして俺を襲った。 「んぐぅ・・・・・・!!」  あらゆるジュエルガイストの爪が、牙が、武具が俺を傷つける。  それだけではない。黒竜王や白竜王が受けたダメージまでもが俺に跳ね返る。  更に、 「―――――――――――――――っ!!!」  アセドエンペルの牙が俺の右腕に!?  急いでスター・オブ・シェラレオーネ≠左手へ。 「ぐわぁ!」  瞬間、アセドエンペルが俺をくわえたまま頭をぶんぶん振り回す。  激痛が神経を焼き、数ヶ月前、そして12年前を思い出す。  くそっ! こいつぅっ!! 「あぐぅっ! 白竜王!」  そのアセドに白竜王を突っ込ませる。皮肉なもんだ。過去に俺の右腕を食い千切ったヤツが俺を助けるな んて。  ひるんだアセドが俺を吐き出すが、右手は半分ちぎれていて、皮と僅かな肉だけで繋がっていた。 「ちぃっ! よくよく運≠ェ無い」  大勢のジュエルガイストと対峙して、俺はゆっくりとまぶたを閉じた。  そして、 「・・・・・・・ギンッ」  緋石眼が『開眼』した!  その俺を見て、ジュエルガイストどもが一斉にたじろぐ。 「さんざんに人の大切な義妹を傷つけてくれたな・・・・・・・・・」  スター・オブ・シェラレオーネ≠構え、ジュエルガイストどもを睨む。 「さぁ! 次は俺が相手になってやる! まとめてかたずけてやるぜっ!」   「うぅっ・・・・・・・・・・・・」  重いまぶたをゆっくりと上げます。  ここは天国? それとも地獄?   ああ。お兄様をあんなに罵った私には、そもそもそのようなところに存在する価値など・・・・・・・・・・・ 「お、やっと目さめたか?」  ! まさか!? 「お兄様!?」  痛む傷など相手にぜず、身を乗り出します。  私は黒竜王の背に乗るお兄様に抱きかかえられていました。 「お兄様!!」  ど、とお兄様の身体に抱きつきます。  ですが、 「っ!!!」 「お兄様!? これは!」  気付いてしまいました。そう、お兄様は隠そうとしたみたいですが。 「お、お、おお兄様・・・・・・・・・・!!?」  自分の愚かさに反吐がでそうです。  私は何という過ちを犯してしまったのでしょうか?  「? どうした? すせり」  お兄様はこのような時でも平常を装っていますわ。  ああ、自分が憎い。こんな優しいお兄様をあんなにも言葉で傷つけて、その上、  お兄様の右腕を失わせるなんて!!! 「ごめんなさい・・・・・・・・・お兄様、ごめんんさい・・・・・・」  自身の過ちとお兄様への悲しみで涙が溢れます。  ああ、何てことを。こんなことをしてしまった私にそもそもお兄様を想う権利など。  お願いです、お兄様。このまま私を、憎いを私を殺して下さいまし!!! 「あ? 何で誤ってんだ、お前?」 「・・・・・・・え?」 「お前、何か悪いことしたか?」 「・・・・・・・・・?」 「ああ、朝のことか? なら気にするな。別に怒ってもないしな。思春期の乙女にはつきものだ」  ああ。なんて方なんでしょう。 「おっと、すせりはもう21だったな。思春期もくそもないか。ははははっ」  この方はそれどころか私の罪を全て許すと、そうおっしゃるのですか?  お兄様のあまりの優しさに、再度別の涙が溢れ出ます。それこそ、押し止めることなく。 「どうした? そんなに怖かったか? そりゃ、オメガカノン≠連発するくらいの大群だったからな」 「・・・・・・・・・・・・ですの?」 「ん?」 「どうしてですの!? どうして、お兄様は私を許して下さるのですか!?」  お兄様の胸にしがみつき、その優しいお顔を見上げます。 「はぁ?」 「私は・・・・・・・私は、朝あのようなことをお兄様に言ってしまったあげく、今度はお兄様に助けられ、その せいでお兄様は右腕を・・・・・・・・・」  お兄様は右腕を、まだ若干ですが肉と皮で繋がっている右腕を見て、言います。 「気にするな。別に朝のことは気にしてないし、お前を助けるのは当たり前だ。右腕は、まぁ何とかなるだ ろ」  いいえ。そんなことはありません!  現に、その傷口からの出血は激しく、お兄様の顔は段々と蒼白くなっていくのが解ります。 「まぁ、なんだ。そんなことよりも、ちょっと待ってろ」  黒竜王を降下させ雲の下に、町の光が見えるところへ移動します。 「そろそろかな・・・・・・?」 「?」  お兄様は携帯を取り出し、何かを確認しているようです。 「3・・・・・・・2・・・・・・・・・1・・・・・・・・・・・・・よし! 出るぞ!!」  その言葉に導かれ、私は町を見ます。  一瞬、町の光が全て消えたかと思うと、また灯ります。  ですが、これは!? 「!!! お兄様! これは!?」  町の光に圧倒され、私はお兄様を見上げます。  そして、お兄様は笑って一言。 「誕生日おめでとう、すせり」    同時に、私の唇にお兄様のそれが優しく重ねられます。  町の灯にはこのようなメッセージが灯っています。 『22歳。おめでとう、すせり』  それに、あれは私の顔までもがライトで描かれています。 「俺は絵は上手くないからな。デザインを洸に頼んでたんだ。ついでに、洸もこれを手伝ってくれたんだ ぜ」  ああ、そういうことだったのですか。  私は無意味な嫉妬心に駆られ、衝動的にあのようなことを言ってしまったのですか? 「それにな、ほら、誕生日プレゼント。ちょと汚れたり傷がついているのは我慢してくれ」  今度は包装紙に包まれリボンされた箱を渡されます。その箱にはお兄様の血の跡がついていましたが、そ れでも、ちゃんと形は整っていて、きっと、お兄様はこれを庇いながらも戦っていたのです。  それなのに・・・・・・・・・それなのに私としたことが・・・・・・・!  お兄様はいつだって私のことを思っているのに、それすら理解できないで・・・・・・本当に情けないです。 「なぁ、すせり・・・・・・・・」  お兄様は後ろから優しく私を抱きしめ、私の顔の横に顔を出します。 「お前が今思ってること。それが自分を責めることなら、それは止めて欲しいな」 「俺にとって、お前は世界で二人といない、大切な人さ」 「・・・・・・・でも、私には、お兄様に大切にされる権利など、愛される権利などありませんわ」 「違うんだ、すせり」 「俺が言いたいのは、お前が俺に愛される権利があるとかうんぬとかじゃないんだ」 「ただ、俺がお前のことを愛したいだけなんだ」 「!!!?」  その言葉につい顔が赤に染まるのを感じました。  お兄様が、私を愛しておられる!? 「『異性』としてじゃなく、『人』としてじゃなく、俺はお前を『すせり』として愛したいんだ。もちろん 異性としても非常に魅力的だし、人としても尊敬するぞ」  ・・・・・・わかりますわ。言葉など無くても、今ならお兄様の気持ちが痛いほどに・・・・・・・・・・・ 「ただ・・・・・・・・・ん〜。なんて言えばいいんだろうな? 解んねぇや」  そして、やっと私は自分の意思を知りました。  今までは私は『存在』と呼ばれるものに少し囚われすぎたようです。  そして『生きる価値』や『存在理由』に縛られたままだったのですね。  それを、改めてお兄様に教えられました。  ああ。何て幸せなのでしょう。  お兄様に『愛される』という安らぎ、安堵感。お兄様は私を愛されている。それが異性愛ではなくても、 解りますわ。お兄様が私を『すせり』として愛してくれることが、どんなに私にとって幸せか。  お兄様が私の為に作られたこの絵に、私はしばらくうっとりと見入ってしまうのです。お兄様に抱かれな がら。  ―――だから、気付きませんでした。 「ああ・・・・・・・・お兄様ぁ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・!? お兄様!」  瞬間、私の背に支えられていたお兄様が崩れ落ちました。 「いやぁああぁ―――――――っっっ!!!」 「お兄様っ!! しっかりして下さい! 目をお開けになってくださいまし!!」  わかっていましたわ。本当は、あの腕の傷がお兄様とはいえ、意識を失わせるほどの多量な出血をさせるものだと。  それでも、私はお兄様のお気持ちが嬉しくて、今まで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  そして、ついにお兄様が無意識のうちに操っていられた黒竜王が姿を消します。  落下しながらも、お兄様の身体を持って召喚します。 「白鳳!」  召喚した白鳳の背に乗り、今度は急いでカルテルが経営する病院を目指します。  少々待っていてくださいまし、お兄様。  今度は、私がお兄様を救いになる時!  結果的に言えば、お兄様は一命を取り留めました。  それどころか、半分諦めていた右腕も完全に治癒されてしまいました。  恐らくは、お兄様が緋石眼を『開眼』されたからですわ。『開眼』された緋石眼所持者は通常の所持者よ りも遥かに大きな力を得れると聞きます。  ですが、理由がどうあれ、お兄様が無事で本当に良かったですわ。  4月4日 日曜日。私の誕生日の午前はずっとお兄様の介護をしていました。  お兄様は午前の段階でほぼ完治して、迂闊にも寝入ってしまった私の傍で起きるまでいてくれました。  そして、午後。私はかねてからダダをこねていました遊園地に行きました。お兄様と2人きりで。  楽しかったですわ。絶叫マシーンに乗れればなおのことですけど(怒  ですが、その日の夜は、正しく天に昇るという言葉を痛感させられました。  夜。私達は私達の家―――家畜の家は主人の家も同然―――へと戻りました。  洸さんが、何か言って迎えてくれたようですが、幸せの絶頂にいた私の耳には入ってきませんでした。  そして、 「なぁ、すせり」  いつものように同じ布団に入る前に、例の如く『あれ』を用意していた私にお兄様は言われました。 「今日はせめて、鎖≠ヘやめようぜ」 「え?」  じゃらっ、と隠し持っていた鎖と手錠が床に落ちてしまいました。  まさか! そんな! そんな、夢見たいなことが!!? 「お兄様、そ、それは一体どのような意味で・・・・・・・・・」 「うむ。ストレートにに言ってしまえば、今日はお前を抱きたい」  ・・・・・・・ああ。今すぐにでも昇天しそうです。  下種な民衆の方々には解らないでしょうが、この時、私がどれだけ幸せだったか。  お兄様が、自らのご意思で私を抱くなんて。  ああ、夢みたい。 「もちろん、喜んで・・・・・・・・・・・・・・・」  そして、どちらともなく唇を重ね、  その夜は何度も、何度もお兄様を感じましたわ。  確かに、昨日は私にとって最高の日だったかもしれません。  ですが、私にとっては他にもお兄様からプレゼントを頂けました。  それは、 「お〜い、すせり」 「あ、お兄様ぁ!」  寄りかかっていた校門を蹴って、お兄様の胸へと飛び込みます。 「おっと。悪い、待たせたか?」 「いいえ。お兄様のためならば、例えオゾン層が完全に無くなるまで待っても苦ではありませんわ」 「これはまた、判断が難しい例えだな」 「ま、いっか。とりあえず、帰ろうぜ」 「はい」  お兄様と一緒に帰宅する。こんなありふれたことすら、今の私にはお兄様が与えて下さったプレゼントに 感じるのです。  まるで、光輝く楽園への道を、お兄様と2人で歩いていうように、そう思えるのです。 「♪♪♪」 「お、おいおい」  いきなりお兄様の腕に抱きつきますわ。  お兄様がプレゼントして下さった新しいリボンがゆらゆらと揺れます。 「気に入ったか? そのリボン」 「はい♪」 「そっか。そりゃ良かった」  お兄様につられ、私も笑顔になります。  私は今更に気付きました。  確かに、私の『存在理由』はお兄様に愛されること。だから、私には『生きる価値』など、確かにありま せん。  まさしく、あの八尋の言ったこと通りになるかもしれませんが、そんなことはもうどうでもいいのです。  『存在理由』がどうあれ、『生きる価値』が無くとも、私には『お兄様を愛する』という『意思』があり ますわ。それだけあれば、『理由』も『価値』もいりませんわ。  私はいかなることがあってもお兄様を愛する。それだけでいいのでですわ。 「♪♪♪」 「ん? どうした? えらくご機嫌だな」 「ええ。それはもう、今宵を想像しただけで胸が高鳴りますわ♪」 「へっ? ま、まさか、今日もやるつもりか?」 「あら、抱かない夜など、もう今後一切ありませんわよ?」 「ま、マジかい!? そいつはそいつで魅力的だが、う〜ん」 「さぁ、今日は一体どのように私をイカさて頂けるのかしら」  そんな会話すら楽しみながら、私はお兄様と一緒に帰路へと。 「♪ お兄様ぁ」  額に手をつき、何かを考えておられるお兄様に言います。 「ん? 何だ?」  当たり前のことを。 「大好きですわ♪」                           ――Fin―― 想い≠謇i久にあれ